活動報告

<卓話> 「 横須賀市の救急医療と災害医療 」

<卓話> 「 横須賀市の救急医療と災害医療 」 横須賀市立うわまち病院 副管理者 
救命救急センター長 本 多 英 喜 様
20140221.jpg  皆さんこんにちは。うわまち病院の救命救急センターの本多と申します。今日は2点、救急医療の私達が今悩んでいる事、或いはこれから予測される課題を提示し、災害医療に関しては自分達の経験を活かして、どういう事を病院が考えているのか或いは医療に必要なのかを知って頂いて、写真を交えながら紹介したいと思います。  私は平成14年、うわまち病院ができて1年後に赴任しました。出身は熊本、生まれたところは北九州。関門橋ができる工事現場を見ながら幼稚園の間を過ごしました。今横須賀に来て10年を超えましたが、子どもの学校も横須賀ですし、現在は完全に横須賀の住人として暮らしています。その中で救急医療をやりながら10年間で感じたこともお話しします。  私が医者になって3年目、20代の半ばの時に人口500人程の島、熊本県 天草の湯島へ2年間赴任しました。ここでは医療機器や検査機器もありませんし、血液検査もできないので、診察だけで診療をしておりました。これは後から話す災害医療も同じ事で、自分の見た目、五感だけで人の生死を判断する事をこういう所で学びました。ここでは救援を呼ぶ際も自費で船をチャーターせねばならないし、20年近く前でしたのでヘリコプターもまだない時代、非常にプレッシャーもありました。今いるところ「うわまち病院」は今年度4月から救命センターに指定されました。建物は古いですが、県や国からの補助金を頂いて、中身は大学病院並みの最新鋭の医療機器が揃っています。特に救命救急センター指定の県の補助金は大きなもので、億単位の補助金をつかっておりますので、これに関してはとても感謝していると共に、これを使いまた色々な医療を展開したいと思っています。  うわまち病院では全国の救命救急センターの年間の救急車受入れ台数4~5千台に対し、年間6千台程の救急車を受け入れていますが、これは比較的少ない病院数で40万人規模の都市を診ているからです。これからこの10年間の救急医療の話しをしなくてはいけませんが、私は現在人口の事を一番気にしています。住民基本台帳によると、市内半分以上が1人または2人暮らし。65歳以上の人口が8万人程。高齢者単独世帯が1万7千世帯もあります。市は救急車をすぐ自分で呼べない高齢者の方にボタンを押すと119番通報できるシステムを6千台貸し出しているそうですが、貸出先の絶対数が多く、メンテナンスや回収等のフォローアップがとても回らない状況です。これからの大きな問題として介護だけで解決するものはなく、病院で生活しないといけない方も増えているので、もっと国に地域のその様な現状を知ってほしと思います。  更に病院は「急性期」という事を言ってはいるのですが、「慢性期」の方にも手が回らない状況であり、高齢者の救急対応も急務です。これに関しては本当に申し訳ないのですがベッドの絶対数が足りません。例えばうわまち病院の急性期のベッドは40万人に対し200床。共済病院・市民病院それぞれ大病院ながら、市民病院で300床、共済病院も5~600床程しかありません。その様な中で癌や怪我の治療をしたりすると、例えば高齢者の肺炎は治ったけど、社会復帰の為のリハビリができない様に、この地区では回復期のリハビリ病棟が不足していて、療養病棟を持っている病院も不足しています。  実は熊本県には600床クラスの療養病院が結構あり、自宅へ帰るのにワンクッションのシステムはできているのですが、僕が関東首都圏に来て一番思ったのは、自宅に帰るまでのワンクッションとなる病院が少ないのです。絶対数を九州と比べると、ワンクッション置く回復リハビリ病棟、療養病棟は 1/3以下、下手すると2割くらいしかありません。特に横須賀市に関しては病院が数えられる程ですので、熊本市と比べると1割くらいなのかなというのが率直な感想です。怪我については車の性能も良くなり、私が医者になったころは1万2千人に達した交通事故の死亡者数も、現在では4千人を切っていますので、僕たちは救急医療というよりも、これからは高齢者の病気を中心に診る事が多いと思います。  残りの時間は災害医療について話をさせて下さい。私たちの災害医療の定義は、医療支援、要は自分達が持っている医療資源が相手より少ない状況を言います。だいたい医学部でドクターが習う時は医師と患者さんが1対1の関係を想定して講義を受けます。病院に行って1人の医師と1人の患者さんとして接する事しか習いませんが、災害時は数が全然違いますので、1人が10人や100人診たりする状況になります。  私の時代の医学部では災害医療というのもありませんでしたし、救急医学もなく、実際に現場に出ながら救急医学を学んだので、災害医療に関しては医療者も抵抗がありますし、看護師にも同じ事が言えます。1人が1人の面倒を見る。要するにマンツーマンですね。基本的に医療者は1人が複数を診る事に慣れていません。平時でも診察室で2~3人同時に診るのも難しい。まして災害となると医療者に対し被災者・負傷者の数が圧倒的に多くなり、しかも支援が来るのに72時間だいたい3日程かかります。今回の雪でも自衛隊が動くのに3日程かかり、今も孤立している地域があるようです。雪でもその程度ですから、洪水や台風等の災害となるとなかなか動けません。という事で私達 横須賀市災害医師会の災害対応の委員会もやっておりますが、そこでも72時間をキーワードにやっています。一般的に私達の考える事ですけれども、横須賀市在住の医療スタッフは結構少なく、私たちの病院も今回の大雪で通勤困難者の職員がいましたが、地元にどれぐらいの医療従事者が住んでいるのかもなかなか読めません。また近隣の市町村との災害協定も医療機関同士ではなかなか結べません。実は救急医の資格を持っている人は全国で3千人、実際に活動しているのは千5百人程。それくらいの規模ですから意外と顔は知っていますが、現時点では顔つなぎ程度しかできていません。本来なら藤沢市や横浜市、川崎市辺りときちんとした事をしないといけないのでしょうが、なかなか医療機関や災害医療の先生も少なく、いざとなったら皆の協力しかないという現状、実にお粗末です。ちょっと紹介しますが、2006年に起こった幼稚園バスの事故では、まとめてうちの病院に来ました。マニュアルでは大人を想定したものは沢山ありますが、子どもの怪我の対応というものはありません。病院の災害対応時には、どうしても大人目線になってしまう。乳児や妊婦に関しては意識しないとすぐに忘れてしまいます。私達の病院では36人の子供達をまとめて診ましたが、親御さんに引き渡すのはすごく大変でした。しかしながらこういったことは病院の使命ですとはなかなか教科書には書いていません。  救命センターは1病院に1か所。ベッドが1つあって救急の処置室があります。大病院になれば何か所かありますが、普通の病院は1か所しかありません。1人を受けると満杯なりますし、同時に4~5人来ることは想定していません。実はアメリカの病院の救急外来は3~4人同時に診ることのできる様出来ており、実はそこにある米海軍の救急外来も重傷者を同時に3~4人受けられるだけの設備があります。ただ問題は医師がいません。場所はあるが医師がいない状況ながら、明らかに設備は凄かったです。さて先般のマンホール事故ですが、私も現場に行きました。1番の理由はけが人の数や重傷度を把握し、そこで救命処置を施して、最低でも心臓と呼吸だけでも回復させて助かる道筋をつくる事にあります。 さて時々病院の車が動いているのを見かけると思いますが、あれは病院が自分たちで車を買い、保険料を払い、運転手もやとっています。一切の補助金無しで、私たちの病院でやっています。補助金は平成15年で打ち切られ、ほとんどがドクターヘリに移行していますので、ドクターカーに関しましては完ぺきに自腹となり、非常にお金もかかっています。  これから先程の「72時間」の話を致します。今日私がこの場に来てすごく良かった事は色々な職種の方がいるという事です。災害医療は一か所で出来るわけではありませんし、様々な方がいないとだめです。今回の雪にしても、雪かきは建設機械を持っていないとできませんし、私たちの病院にガソリン、灯油、重油が無い場合はガソリンスタンドが灯油を持ってきてくれないと無理です。そういう事で災害時は普段の生活以上に色々な業種が結びつかないとできないのです。本来ならばこういう場を設けて頂き、どんどん災害のお話しをすればいいんだろうと本日来て思いました。  皆さんに少し知って頂きたい事の一つに「自立自助」があります。病院は災害時に救急患者さんを受けいれるだろと思われているでしょうが、病院には入院患者さんもいます。その患者さん達をどうするかが1番大変です。例えば夜勤となると1病棟約50人の患者さんがいますが、看護師は2人です。そこに災害があり、患者さんを沢山受けて下さいと言われた場合、さっき言った5名だとしてもとんでもない事になりますね。うわまち病院の場合、例えばベッドが8病棟あったとしてもそこの看護師は20人に満たないわけで、ドクターに至っては夜間の場合、内科・産科・小児科・救急合わせても10人に満たないわけです。  だからその様なミニマムな状態からマックスに持って行く場合、昼間の時間帯は医者が病院に100人近くいますし、看護師ももっといるだろうと思いますが、災害はいつ起こるか分かりません。大事な事は病院の入院患者さんをどうするか、これが1番です。特に共済病院や私たちの病院は何百人という患者さんを抱えています。そういう人たちをどうするかが、帰そうにも自宅が無かったり、或いは迎えに家族の方にお願いする場合も入院患者に負担がかかります。国・横須賀市が考えているのは、入院患者さんに対しては今のところ各病院が自分たちで責任もって看て下さいという状況になっています。私達も非常にそれを危惧して、一所懸命病院をどの様に維持するかを考えています。だから災害という前に自分たちの病院がどう生き残るかというのも、実は全国の病院が同じ問題を抱えているってことをちょっと知って頂きたく思います。これは言葉で書くと簡単ですが病院にはライフラインが必要です。水も当然必要です。寒いと暖房も必要です。この時期救急外来には「低体温」と言ってご自宅で冷たくなってくる人がいます。昨日来た人も体温が29度でした。皆さん信じられないと思いますが、この関東首都圏では、凍死・餓死この時期何人か運ばれてきます。「低体温症」と言って自分の体温が30度をきっている人たちがほぼ毎週の様に私たちの病院にも運ばれてきます。暖房器具が無いところも結構あり、特に高齢者の方が冷たくなって、病院に来る事例を私達は現場でよく見ています。ライフライン、特にこの冬の時期の暖房、夏は冷房等の電力がどうしても必要です。また交通機関に関して。先日も雪が降りましたが、除雪も病院は自分でやりました。機械が無いので、みんなで一所懸命やりましたが、雪国に慣れていないととても大変でした。救急車自体はスタッドレス履いており、どこでも行けますが、病院は3日間苦労をしました。  さて俗にいう「うわまち渋滞」。病院に受診する車が衣笠に行く県道まで伸び、ご迷惑をお掛けしています。同時にこれは横須賀市の交通アクセスというものが弱い事でもあります。災害時、特に市内の臨海地域は注意しましょうと考えています。話をまとめますと、災害時119番をしても横須賀市10隊の救急隊はほとんど災害救援に行きますので、119番は動きません。だから移動の手段は私たちの病院の場合、ドクターカーが2台しかいないという事になります。私達は災害医療の対応はしますが、皆さんの自立自助をお願いしながら、ボランティアの受け入れや、装備品の事も近隣の各業種団体の方に今日、お願いしたいと思います。困っている際は情報をどんどん発信しますので、発信した情報の受け皿も作る、そういったシステムも必要だと思っています。亡くなった方へ対応は忘れがちで、身元確認或いは安置所等々...

 歯科の先生方は歯型で亡くなった方を照合する訓練を日頃からされています。その辺は医科よりも歯科の方がどんどん進んできていると思っています。できればこの横須賀市は市立病院が2つもありますので、そこの2つ目をどうするかという事を行政に考えてほしいなとも思っています。  最後にヘリコプターの話をしたいと思います。私たちは今回の災害支援にヘリコプターをよく使用しました。陸路が遮断されている場合等、今回の大雪でもヘリコプターが大活躍しています。医療機関でもヘリポートのある施設が活躍しています。三浦半島では災害支援に使える病院は三浦市立病院しか実はありません。よく屋上にヘリポートが有りますが、マンション等にあるものは救助用で、ヘリコプターが降りるのには少々重さに耐えられません。ところで九州では病院の屋上にどんどんヘリポートを建設しています。かなり頑丈で強度もあり、しかも夜間も飛べる様になっています。そういうものを作っておかないと、自衛隊等標準の2倍以上ほどの重さのある、10~12トン級のヘリコプターが屋根の上におりた場合、今回の大雪で屋根が落ちたのと同じようになってしまいます。横須賀市の場合はヘリポートが有りません。これもまた大きな問題だと思います。ヘリコプターが運動場に降りる場合、砂埃が舞いますし、子ども達もいます。なかなか使い辛いところがあるのでビル屋上のヘリポートがこれからは必要だと感じていますし、病院の屋上ヘリポートが一番活躍するだろうとも考えています。  災害時は現場の判断が優先されます。この様な場合、災害コーディネーター、すなわち現場監督の様な方がいて、国とか消防とか自衛隊のコーディネートをして下さる方、すなわち「地域災害医療コーディネーター」の方が必要です。その様な人が色々なところで情報を共有しながら動くことが重要と、今回の震災を含め、私たちの災害医療という分野では今注目をしています。コーディネーターの仕事は異業種が交わることが必要になると思います。  また現場では背中に書いてある「医師」マーク、これが大事です。これをしていますと一目で医師とわかりますので、私たちが医療活動をするときは、必ず自分たちの身分がわかる様にドクターカーで出かけるときも背中に「医師」と張っています。これが無い人が活躍している際はちょっと怪しいかなと思って頂いて良いと思います。私達も市立病院を含めた地域の医療機関を充実させて下さいという事と、災害医療コーディネーターの話しと、こういった異業種と病院の関わり、市との関わりという事が必要であるという事が今回の話のまとめになります。以上です。

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