活動報告

<卓話>役に立つiPS細胞

<卓    話>        「 役に立つiPS細胞 」

  東京大学医科学研究所小児細胞移植科 海老原 康 博 様

3045.jpg前田先生、簡単にご紹介ありがとうございました。本日は横須賀ロータリークラブの例会の場に御呼び頂きまして、本当に心より会長を始め会員の皆様に御礼申し上げます。どうもありがとうございます。

それでは、今日私に与えられたのは、先程、役に立つという、まあ役に立つというとちょっと漠然としているので、まあ多分使うのは患者さんかなという事もありましたので「患者さんに役に立つⅰPS細胞」という事で御話しさせていただきます。

まずⅰPS細胞の話をするのにあたって、幹細胞というものが体の中にあります。人間の体の中にはいろんな細胞があるのですが、その元となるのが幹細胞と言われています。受精卵という一個の細胞から、体全体が作られていることを考えますと、幹細胞というのはすごい細胞なんだなというように考えられます。その中で皆さん、僕もそうですが成人になった時に幹細胞となる存在、それを組織の幹細胞とか体性幹細胞という言い方をしています。例えば骨髄とか脂肪とか血液などに含まれる微量な幹細胞、

の細胞にそれを使い治療を行う事ができます。

次に病気の治療法の開発ですが患者さんの体の細胞からⅰPS細胞を作り、疾患特異的ⅰPS細胞を採り出し、病気を再現します。それによって、病気のメカニズムや原因を明らかにしたり、治療法を開発する事ができます。例えば、ⅰPS細胞から白血病細胞を作り、増殖し、たくさんの白血病細胞を作ることによって詳しい解析を可能にし、新しいお薬を投与できるかどうかというのも検討できるようになります。これまでに世界でも約20例しか報告されていないので、その希少さゆえ、有効な薬剤は全くわかっていないのが現状ですが、たくさんの白血病細胞を増殖する事ができるので、いろんな実験に使えることになります。解析が可能になると、薬剤の効果も実証され、治療の開発が進む事になります。一番いいのは、正常の細胞を殺さず、白血病細胞だけを死滅する薬ができれば一番いいという事でございます。先程から申し上げている通り、事前にⅰPS細胞を使って薬を投薬し実証していくことによってより有効的な治療方法が発見されていくという事でございます。

次にⅰPS細胞を使って花粉症を治す事は出来ないかと言う点ですが、花粉症というのは鼻や目の肥満細胞にいたずらをして、ヒスタミンを放出させ、それによって神経を刺激して目のかゆみや鼻水やくしゃみを誘発します。花粉症の患者さんからⅰPS細胞を作って、ⅰPS細胞から肥満細胞というものを作ります。その肥満細胞に抗原を注入し、その抗原の量に応じて、肥満細胞からヒスタミンがどんどん放出される。患者さんの肥満細胞からヒスタミンが放出されることがわかります。患者さんで起こっている事はここで再現する事ができます。これを用いて、患者さんからⅰPS細胞を作り、それにいろんな薬を投与し、一番、ヒスタミンの放出が少ない薬の開発ができるのです。ある人にはAという薬があっていますし、ある人にはBという薬があっているというように、人それぞれにあった薬ができる訳です。

今まで、ⅰPS細胞を使った良い点ばかりを挙げてまいりましたが、実際、臨床の場に応用される場合には、まだ少し問題があります。いろんなところでⅰPS細胞を作っているんですけれども、1.品質のよいヒトⅰPS細胞の開発ができるかどうか、2.がん化の可能性を抑制することが大切、3.適切な細胞への分化誘導法のよりよい方法の開発、4.ひとりの患者さんにかかる費用が何千万というケースもあり、コストをいかに抑えるか、5.新たな倫理的な問題でES細胞では受精卵を使うという倫理観がありますけれども、ⅰPS細胞には個人情報というものがあり、その事をどう取り扱うか、6.実際にできあがった場合には特許とか知的財産の問題が発生すると、そういった問題も考えていかなければならないということでございます。

最後に、ⅰPS細胞は間違いなく「夢の細胞」です。でも、安全性など、確かめなければいけないこともまだたくさんあります。もう少しお待ちくださいませ。

これで、私のお話を終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。

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