活動報告

<卓話> 「 ピロリ除菌の必要性と適応について 」

<卓話>「 ピロリ除菌の必要性と適応について 」

マールクリニック横須賀 院長 水 野 靖 大 様

20130830.jpgご紹介頂きましてありがとうございます。水野と申します。宜しくお願い致します。私自身はロータリークラブに足を踏み入れたのは初めてのことですが、私の父も、私の仲人をしてくださった先生もロータリークラブの会員でした。今度横須賀で開業するにあたって、川名様にお力を貸して頂きました。また諸先輩方のお話をお聞きしますと、ロータリークラブの会員だという方がいらっしゃいまして、人生の節目で色々なところでお力を貸して頂いて本当に感謝しております。本日はピロリ菌についてお話をさせて頂きたいのですが、実はこれ程までにこのロータリークラブに医者の方がいらっしゃるとは知らなくて、諸先輩方には申し訳ありませんが、ちょっと若造が勉強してきた知識を皆さんに見て頂く様な気持ちでお話ししますので聞いて下さい。他の方に関しましても、最近テレビ、雑誌あるいは本でご存知かとは思いますが、再度確認ということでお話しさせて頂こうと思います。宜しくお願い致します。

最初のスライドになります。今年の夏に米が浜でお祭りがありました。このようなお祭りがある街はなかなか無いと思いました。非常に楽しい街だなあと思って写真を撮りましたので表紙に使いました。

私は胃がん撲滅に向けてピロリ菌を退治していこうという気持ちでおります。まずヘリコバクター・ピロリについてご説明します。1983年にオーストラリアのウォレンという方とマーシャルという方が発見しております。1994年(20年前)にWHOが胃がんの確実発癌因子として発表しております。この確実発癌因子が何かと言いますと、例えばアスベストと同じくらい恐ろしいものだということ事をWHOは20年前に認識しております。それで2005年にはウォレンとマーシャルはノーベル生理学・医学賞を受賞しております。ヘリコバクター・ピロリが20年前発見と言うと、皆さんにとってかなり古いように思われるかもしれませんが、医学的にはかなり新しい考え方、また治療であることを認識して頂きたいと思います。

このヘリコバクター・ピロリですが、ちょっと変わった名前をしています。ヘリコはらせん・旋回という意味、バクターはバクテリア・細菌、ピロリは胃の幽門部。幽門部というのは胃の出口のところです。平たく言うと胃の出口のところに住んでいるらせん型をした細菌ということです。この細菌というところが一つのポイントです。それ以外のがんを発生させるもの、例えば子宮頸がんのヒトパピローマウィルス、肝がんであったらB型肝炎、C型肝炎ウィルスというもので、ウィルスというのはなかなか厄介なものなので、がんになると皆思っていました。ところが、細菌は抗生物質で死ぬものなので、今は征圧されたと思われていたものが、実はがんを作っていたということで、これが医学的にはかなりショッキングな出来事でした。

ピロリ菌により引き起こされる疾患は色々なものがあります。かいようであるとか、MALTリンパ腫、機能性ディスペプシア、胃ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病という舌を噛みそうなものまで色々あります。特発性血小板減少性紫斑病は原因が分かっていませんが、人間の中の血を固まらせる成分である血小板が、どんどん減少してしまい出血が止まりにくくなるような病気です。こういうものまでピロリ菌が関与しているということが分かっております。ピロリ菌に対して厚生労働省が保険を使って退治してよいという疾患は、かいよう、リンパ腫、それから特発性血小板減少性紫斑病、胃がんでしたが、今年の2月に萎縮性胃炎、要するに胃炎に対してもピロリ菌の除菌をしてもよいということが決まりました。

ではピロリ菌がどの程度の割合で人に感染しているかということですが、2010年には、60歳位でしたら約8割の人がピロリ菌に感染しています。それがショッキングだと言われていますが、それ以上に、20代、30代の人でも2割から2割弱の人にピロリ菌がいることが怖いのです。ピロリ菌が、どうやってうつるのかというと、基本的には経口感染と言われています。口から入ってきます。60代以上の方の主な感染源は、戦前戦後の衛生状態のよくない時代の井戸水などです。井戸水などの中にピロリ菌がいたのです。ピロリ菌は5歳までにしかほとんど罹らないものです。5歳までの時に口の中にピロリ菌が入ってしまい、その後ずっと感染し続けています。それでは最近、家で井戸水を飲んでいる人がいないはずなのに、どうして感染しているのか? それは、高年齢の人たちがお子さんを育てる時に、口で噛んでちぎって食べさせたり、そういう事をしてうつしているといわれています。いまだに私の病院でも若いのにピロリ菌感染という人がいらっしゃいます。

胃・十二指腸かいようとピロリ菌の感染率の関係ですが、かいようの患者さんの9割がピロリ菌に感染しています。尚且つ怖いことに、かいようは、聞いたことがあるかもしれませんが、何度も何度も再発します。何度も何度も再発することを、特に十二指腸かいようの場合を見て頂ければよく分かりますが、除菌しなかった場合は8割5分の確率でまた再発します。けれども、除菌さえしてしまえば再発率を7%位に下げることができます。かいようになるのもピロリ菌のせいですし、それを繰り返すのもピロリ菌のせいです。

かいようも勿論怖いのですが、皆さん怖いと思うのが、がんだと思います。このがんですが、胃がんには絶対ピロリ菌がいなければいけないというわけではありません。データでは、ピロリ菌に感染している人1246人を10年間フォローしたところ、2.9%の確率でがんになっています。ところがピロリ菌に感染していない人280人を追跡したところ一人もがんになっていません。この位の差が出ています。

また、早期胃がん治療後、ピロリ菌を駆除すると新しい胃がんの発生率を下げることができるというデータもあります。早期胃がんは内視鏡胃カメラで治すことができます。胃をとったりしません。早期胃がんを内視鏡胃カメラでとって胃をそのままにしておいた人で、またがんになってしまう人が3年後に大体8%~9%います。ところがこの胃がんの手術をした人でピロリ菌を退治すると、三分の一程度の3%から4%の再発率までに抑えられます。胃がんができるまで進行してしまった状況であったとしても、ピロリ菌を退治することによって、以降の胃がんになる危険性がぐっと下げられるというデータがでています。

ではこれほど怖いピロリ菌ですが、「ピロリ菌はどうやって調べるのですか。」とよく聞かれます。胃カメラを使う方法と使わない方法があります。それぞれ長所短所がありますが、僕らが一番お薦めしているのが尿素呼気試験というものです。胃酸がある中でどうしてピロリ菌が生きていられるのか、普通胃酸で大体のものは溶けてしまいます。ウォレンとマーシャルがピロリ菌を発見した時にも、胃酸の中で生きられる菌なんているわけはないと、ほとんどの人は一蹴したわけです。けれども、実はピロリ菌は胃の中にある尿素を自分で分解してアンモニアと二酸化炭素に分けるのです。このアンモニアがアルカリ性で胃酸をアルカリで中和しながら生きています。これをちょっと逆手にとります。尿素呼気試験は、C13という番号のついた尿素を飲んでもらい、もしピロリ菌がいたらアンモニアと番号のついた二酸化炭素ができるということで、呼気中、吐いた息のなかの二酸化炭素にそういう番号がついているかどうかを調べる検査で、痛くも痒くもない検査です。この検査が一番感度、すなわちピロリ菌がいる時にいるという可能性がきちんと分かる検査だといわれています。よく胃カメラを使って検査をする方が、精度が高いように思われる方もいらっしゃいますが、胃カメラで一部組織をとって検査をする場合、そこにピロリ菌がいなかった場合はマイナスとでてしまうので、私は胃カメラを使っての検査より胃カメラを使わない方の検査をお薦めします。ただここで胃カメラは必要ないのかと言いますと、ピロリ菌に感染している人は、潰瘍やがんの可能性がありますから、検査をするときには一緒に胃カメラを必ずやって、現時点でがんになっていないことを確かめて欲しいということを患者さんにはいつも伝えております。

次に横須賀では画期的なABC検診が行われています。ピロリ菌がいますかということと、胃炎がありますかということを(これ採血でわかるのですけれども)、この検査を組み合わせてABC検診といいます。ピロリ菌がいなくて胃炎がないAというのが、これが一番いいに決まっています。こういう人は胃がんの発生率はほぼゼロと言われています。次にBでピロリ菌はいるがそれほど胃炎は進んではいないという人、これは1000人あたり一人がんになる。次にCでピロリ菌もいて胃炎もおこっている、これは500人あたり一人がんになる。最終的にはピロリ菌は胃炎をおこしすぎて自分も住めなくなっていなくなる。これがDにあたり、80人あたり一人胃がんになると言われています。このようなリスクをまず出して、このリスクに応じて胃カメラ検診を行うことを横須賀では進めています。市民全員が胃カメラ検診をするとマンパワー的にも費用的にも財政的にもパンクしてしまいます。まず一旦、ABC検診でできるだけ胃がんになりそうな人を囲い込んで、胃カメラ検診を行っています。市でやり始めたのは横須賀が一番初めだと聞いております。

次に、ピロリ菌を除菌する方法です。実は、抗生物質を二つと胃薬を一種類飲むだけ、たったこれだけで治ってしまいます。クラリスロマイシンとアモキシリン(これはよく聞いたことがあると思いますがペニシリンです)、ペニシリンとクラリスロマイシンそれと胃薬を飲むだけで、なんと7割の人が除菌できます。ピロリ菌がいなくなります。7割の残り3割の人はどうしたらいいのという話であれば、このクラリスロマイシンであるクロライド系以外の抗生物質を組み合わせることによって、一次除菌できなかった3割の人の8割から9割は除菌ができます。これでもダメだった人は三次除菌というのもあります。実際若干下痢やアレルギ-をおこす人はいますが、ほとんど何の症状もなく一週間で除菌は終わります。除菌は必ずやっておいていただきたいものだと思います。

お母さんが子どもに食べ物をあげる時に唾液で感染していることを証明した実験データがあります。ピロリ菌の経口感染、口からの感染です。ピロリ菌に感染しているお母さん32人の家庭を5年間観察すると3人のお子さんがピロリ菌に感染しました。逆に13人の感染していない家族を6年間観察してもピロリ菌に感染したお子さんは一人もいなかったというデータがでています。東邦大学で本年4月に出した新しい実験データもあります。お父さん、お祖父さんではなく、特にお母さん、お祖母さんがピロリ菌に感染しているお子さんほど、感染しやすいというデータがでています。私の病院では「ママさんピロリチェック」をしています。お母さんたちがお子さんにうつさないようにするためにも、早めの時期にきちんとピロリ菌のチェックをして、どんどんピロリ菌を日本から無くしていきたいと思っております。

さて、今までピロリ菌の概要を話しましたが、私の病院で7月2日から8月の半ば位まで、新しく病院に来た人に、アンケートをとりました。そのアンケート自体は今も続行していますが、ここに持ってくるために8月の半ばでいったん集計しました。私の病院にずっとかかっている人は、私がピロリ菌ピロリ菌と言い続けているので皆さんピロリ菌のことを知ってくれていますが、それを知らない患者さんたちにピロリ菌のアンケートをさせて頂きました。背景として、182人、男女比はほとんど同じ位で、20代から30代、それから40代から50代が結構多いボリュウムになって、その上の年代方も少しいらっしゃるという感じで調べましたところ、これが結構ショッキングでした。

ピロリ菌の知名度は、私からしてみればテレビとか週刊誌で再々やっているにも関わらず、実はまだ50人、27%の方が分かっていません。四分の一以上の人はまだ知らないのです。

これは医療者として恥ずかしかったことですが、「情報源としてどこから知っていますか」という質問の回答では、医療関係はマスコミに負けています。やはりマスコミが延々と言っている方がちょっと強かったということですね。

もっとショッキングなデータがありました。ピロリ菌を知っている7割強の方をさらに調べたところ、ピロリ菌の検査をした人は実は四分の一しかいない。残りの四分の三の人は検査をしていないのです。

更に怖い話ですが、ピロリ菌の検査をした人のピロリ菌の陽性率を調べますと、最初からの陰性は23%で、残りは除菌して陰性だとか、除菌失敗だとか、陽性だとかであり、これを全部合わせると7割5分以上の人が陽性です。ということは先ほどの四分の三の人たち(ピロリ菌の検査をしていない人たち)の内の四分の三は、実は胃の中にピロリ菌を飼っている人がいるということです。

しかも「ピロリ菌の除菌をなぜしないの、あるいはチェックもしないの」という質問の回答を見ると、ほとんど「理由なし」になっています。もし、胃カメラが恐いというような理由でしたら、その他の理由に胃カメラが恐いという人たちは書いてくれています。この「理由なし」は、本当に別になんという意味も無いということが多いようです。これは最初にお話ししたピロリ菌が新しい事だということに繋がってくるのです。今年の2月までは胃炎に関しては除菌はいらないという話でした。それ以前に医者から不要と言われたことを患者さんが覚えていらっしゃるのです。去年、ピロリ菌の検査を行った時に「あなた胃炎だから必要ないですよ」と言われたことを覚えている方もいます。胃炎にも保険適用が拡大したということ、胃炎にも除菌は必要になったということをもっと訴えていかなければいけないと考えています。

ピロリ菌の治療は新しい考え方です。1994年にWHOが確実発癌因子と発表。日本では2000年に潰瘍に限って健康保険が適用。2009年に日本ヘリコバクター学会は、ピロリ菌がいるならば全部除菌しなさいといっています。今年、ヘリコバクター感染胃炎が保険適用になっています。胃がんは年間10万人が発症しています。胃がんの原因の9割はピロリ菌です。今回の改定で胃がんは四分の一になるのではないかと言われています。それどころか一部の人達は、これをずっと続けていけば、胃がんがもう無くなるのではないかとすら言っております。

最後に写真をご覧頂きます。この写真は最初にお話したお祭りで、私はちょっと神輿をかつぎました。なぜこれを出したかと申しますと、横須賀の医療の一端、この写真では私はだいぶ前にでてきていますが、本当は端でも構わないので、これから何とか横須賀の医療、ひいては日本の医療の一部を担えていけたらいいなというふうに思っております。ご清聴ありがとうございました。

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