活動報告

<卓話>「 憲法守って国滅ぶ 」

慶應義塾大学法学部教授・弁護士 小 林   節 様

小林 節でございます。今この場に立ちまして、感慨無量でございます。20年ぐらい前に、友人の吉田清君から、JCを卒業してロータリーに入ったという報告を受けたのがつい昨日のような気がします。彼がJCの最終年度のときに外交安保の政策の委員長をしておりまして、その時に講師として呼ばれて知り合いました。それ以来、勉強仲間になっています。といいますのは彼が慶應義塾大学の大学院の科目等履修生になってくれまして、同じ研究室で勉強した仲です。もちろん特別学生も入学審査がありますので教授会で書類を審査しまして、彼を学生というよりも講師として呼んだほうが良いのではないかという話も挙がりました。しかし彼は確かに学生でした、彼は学生証を持っていたはずです。
数年慶應におりまして、とてもいい友達になりました。私は兄弟がおりませんでしたので、兄弟のような付き合いをして、仲がよくて喧嘩もしました。ここには加藤君をはじめJCのときに知り合った方々がたくさんいらっしゃって、居心地がよく、まさか魚藍亭のお弁当が食べられるとは思っていなかったので、もうこれだけで帰ってもいいくらいです。<卓話>「 憲法守って国滅ぶ 」
先ほどのニコニコも懐かしいです。私も東京西ロータリークラブに入っていたことがありますが、多忙のため退会させていただきました。さきほど講師の謝礼としていただいたものですが、これを吉田君の会長就任祝いとしてニコニコに入れさせていただきます。
さて、お話しをします。「憲法を守って国滅ぶ」と過激な言葉ですが、私は20数年前にそういうタイトルの本を出版したことがあります。ここ横須賀は軍都ですから、ピンときていただけると思いますが、20数年前はまだ冷戦も終わっていませんでした。憲法9条が神棚にあげられていて、これがちょっとでも変えられたら明日にでも戦争になると言われていました。土井たか子さんが頑張っていた時代です。
憲法の欠点というのはいろいろありますが、憲法というものは、神様でない人間が大混乱の中で作るものですので、当たりはずれがあって当たり前です。われわれ国民が幸福に暮らすために、国家という道具を憲法で組織し、憲法で管理していくのですが、とても大切な最高法規です。そういう意味では主権者として憲法をきちんとメンテナンスして、国を管理し幸福を追求していく。幸福の条件とは、自由であること、豊かであること、平和であることであり、これを害する政治は許さんという構えで憲法を思っていれば良いのです。
一つ現行憲法の不備をお話しします。最近、中国が尖閣諸島を襲ったり、北朝鮮がミサイルで日本を恫喝している、それから韓国が竹島を占領している。
日本国憲法は前文に「諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあります。決意するのは勝手ですが、私が皆さんの公正と信義に信頼して、私の安全と生存を保持しようと決意したとします。刑法も警察も戸締りもいらないとしたら、あっという間に強盗に襲われると思います。
諸国民の公正と信義に信頼してという前文があって、9条で戦争を放棄しています。戦争という概念を放棄するということは、「私が目をつぶったら見えない、見えないから無い、無いから安全である」という発想はおかしな話であります。戦争を放棄したので戦力を持たない。そういった憲法を制定した時点ですでに北方4島はロシアに軍事占領されていました。その後、竹島が韓国の超ナショナリストである李承晩政権に軍事占領され、北朝鮮はやりたい放題で、テポドンで恫喝している。尖閣諸島は中国の船がうようよしている。
憲法9条は機能していない。きちんと国民に示し改正すべきだが、政府は言う勇気がない。憲法は憲法であって、国の戦争と平和の問題は国際法である、国際法によれば国には自衛権があるから、自然権としての自衛権に基づき、押されたら押し返す自衛権は持っているが憲法9条2項で戦力が禁じられている。
戦力と自衛隊はどう違うのか、大きい軍隊は戦力で、小さい軍隊が自衛隊だとしている。これだけの国を小さい軍隊でどう守るのか。また、そう言いながら実際にはかなり大きな軍隊を持っている。
私は日本でまじめに勉強して、勉強だけはできましたが、留学してハーバード大学で勉強しているうちに日本が益々おかしな国だと思うようになりました。帰ってきて9条改憲論を唱えたら袋叩きにされました。
9条があるから自衛隊は軍隊ではない。法体系上、第二警察です、撃たれてから撃ち返すという発想が警察と同じ。軍隊であれば睨まれたら、その時点で自分の責任で撃っていい。尖閣諸島で中国の軍艦に照準を合わされたとしたらアメリカであれば撃っている。日本の自衛隊は逃げ回る。撃たれたら撃つ、撃たれてから撃ち返すでは撃ち返す自分がいなくなってしまう。大金をかけて中国に撃たれて沈められる軍艦を持っていることになってしまう。お金は別としても、命はどうするのか。そういった意味で憲法を改正しないといけない。
自民党の安倍さんが改憲といってくれるので改憲論者としてはやりやすいが、内容が違う。それで私は孤立してしまう。先ほどの右も左もないというのはそういうことです。
改憲論議をちゃんとすべきだったのに、政府が逃げ回って論議してこなかった。憲法というのは六法全書のなかで、唯一主権者である国民が権力者を縛ることができる法です。
この中で「借りた金を返さなくていい」と思っている人はいないでしょう、しかしながら現実には借りたお金を返さない人がいる。その為に民法がある。人間は分かっているけどやめられない、という側面を持っています。私は自分の心の中に神様と悪魔がいることを認めます。ではなぜ私の心の悪魔の部分を表に出
さないか、それを出してしまうと社会的制裁を受けます。失うものが多すぎる。社会的地位もある、失いたくない家族もいる。
話しを元に戻しますが、借りたお金を返さない人が古今東西いる。いつの時代もどこの国でもある。それを縛るのが民法で、どこの国にも民法があります。民法の変形で商取引に使われるのが商法です。民事上のトラブルを解決するために裁判する必要がある、それを定めたのが民事訴訟法です。
それから、この中で「気に入らないやつをたたき殺していい」と思っている人はいませんか、いないですよね。「できたらどれだけ気持ちいいか」と女房に話ししましたら、「それは良くない、あなたを殺したい人の方が多いから」と言われました。戻しますが、嫌いなやつを殺していいと思っている人はいないのに殺人が起きる。これが人間の不完全性だと思います。そのために刑法がある。刑事事件のフェアな処理を決めているのが刑事訴訟法です。六法のうちの5つがでました。残るは憲法です。
では憲法とは何かというと、国民主権国家というのはわれわれ一人ひとりが一株株主なんです。天皇主権国家は天皇がオーナー社長だったわけです、それをやめて皆が国の主であるとして国の管理者を国民の代表がやる、それが議員であり権力者となるわけです。権力者も生身の人間ですから、権力の濫用の可能性があるわけです。憲法がその濫用を規制する。憲法の三権分立は、立法権を与えるということは立法権だけを与える、立法権の行使はきちんと2院制でと決められているわけです。そして、形ばかり正しい法律が作られたとしても、人権を踏みにじるような法律は人権侵害だとカードを突きつけるわけです。憲法が権力を管理している。これが立憲主義です。
ところが自民党が出してきた改憲草案では、全国民は憲法を守らなければならないとしています。そうではなくて、全国民の中で政治家と公務員は憲法を守らなければならないのです。「権力者よ 憲法を守れ」でいいんです。
同じ改憲草案の中に、「家族は仲良く助け合わなければならない」としていますが、これは道徳的には正しいが、法で縛るものなのか? 家族仲良く助け合うことと憲法で規定したら、離婚直前の夫婦は憲法違反になる。おかしいことですよ。"法は道徳に踏み込まず"という最低限のルールが守られていないわけです。
それから権利と義務は対応するものであるという方がいますが、それは誤りです。今の憲法は権利ばかりで義務がほとんど無いというのがその理由ですが、憲法は国家権力には真面目な政治をしなさいという義務を課して、国民には人格的生存を害されない、もし害されたときは抵抗できる権利がある、そういう道具が憲法です。したがって憲法に人権が多いのは当たり前です。
自衛隊の海外派兵、自民党の案では国防軍の海外派兵は法律に委ねる、すなわち国会の多数決で決める、としていますが、これはとんでもないことです。先ごろアルジェリアで日本人が殺されました。あれは明らかにイスラムによる報復でした。イラクやアフガニスタンなどで日本が米軍を支援した、つまり米軍側で参戦したという理由でイスラムが復讐したのです。これに対して日本の政府はあくまでも日本は飛行機便と燃料や軍人の食糧を提供しただけであり引き金は引いていないという主張です。しかし、銀行強盗をしに行く人の車を運転していったら明らかに共犯です。車を運転していただけだという主張は通りません。
日本人がキリスト教とイスラム教の戦争に巻き込まれる筋合いはない。でも、国際社会の要請があれば出動します。国際社会の要請とは国連の決議です。アメリカの要請ではなく国連の決議に従います。国連決議があったとしても、場合によっては、不況や震災等で疲弊しているから派兵できないと断ることも日本政府のとるべき対応ではないでしょうか。だから、国会による事前承認も必要です。
国民は馬鹿じゃないので、きちんと知らしめれば、ちゃんとした論争と政治的戦いができる。憲法改正は結構です。しかし改悪はだめです。ここにいらっしゃる皆様は地域のリーダーでいらっしゃいます、これからの政治に心してかかわっていただきたいと思います。以上です。ありがとうございました。
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