活動報告

<卓話> 「増加する胃食道逆流症」

― 胸焼け、呑酸症状はありませんか ―
横須賀共済病院消化器病センター
内科部長 池 田 隆 明 様

20120912.jpg 今日このような場所でお話させていただくことができて会員の皆様に深く感謝しております。
早速ですが話を始めさせていただきます。
 消化器内科では最近悪性疾患ではすい癌、良性疾患では胃食道逆流症が圧倒的に増えております。どうして増えているかということと、この会場でもおそらく呑酸(どんさん)の症状をお持ちの方もいらっしゃるだろうと思いこの話題にしました。
 胃食道逆流症というのは、胃の中にある胃酸を防御する粘膜等が失われた場合に胃潰瘍などを発症しますが、食道は粘膜等の防御機構がないので、胃酸が食道を逆流しますと食道を傷つけ胃食道逆流症になります。胸焼けや呑酸などの特異的な症状のほか、もたれやちょっとした異変なども含まれます。多くの方が見落とされている可能性があります。別添のスケールの点数が8点以上ありますと症状の可能性があります。私は9点でした。
 2007年から見てみますと胃食道逆流症が増加しています。原因の一番には食生活の変化が挙げられます。動物性の脂質、たんぱく質の摂取が増えていることが要因です。脂肪の摂取が続くと胃と食道のつなぎ目の筋肉を弱くします。さらに動物性たんぱく質の摂取が増えると、胃酸の分泌が高まります。食塩の摂取量が減少すると胃の粘膜を収縮させる働きが弱まります。つまり胃酸が増加し、食道のつなぎ目が弱っているため症状が出やすくなっていると考えられます。
 最近、ピロリ菌というものが着目されておりますが、1983年西オーストラリア大学のウォーレンとマーシャルという二人が菌を発見しました。
 ピロリ菌は胃の中の粘液層というところに住んでいて、尿素を分解してアンモニアを作っています。アンモニアの膜で胃酸から身を守っています。胃の粘膜に毒素を注入し粘膜を萎縮させます。
 この会場でも10人に7、8人は菌を保有していると思われますが、最近保有者自体は減っています。若いうちに菌が入らなければ感染しません。大人になってから胃にピロリ菌が入っても胃酸で浄化してしまいます。
 胃食道逆流症の治療方法ですが、従来は生活習慣の改善を重視してきました。脂肪分の多いおいしいものは避け、お酒やタバコもだめ、夜遅くに食事してはいけない、寝るときは頭を高くして・・・などかなり厳しいことを指導してきました。ただ有効性があったといえるのは体重を落とすことと頭を高めにして休むことぐらいでした。最近ではいい薬が出てきたので厳しい生活制限は必要なくなりました。
 胃酸を少なくすることが最近の治療法で、胃酸分泌を確実に抑える「プロトンポンプ・インヒビター」という薬が効果的です。この薬を飲めば一日か二日ですぐに改善されます。
 胃食道逆流症で気をつけなければならないのは、症状が軽くなって一見治ったかのように見えますが、再出現する可能性が高いことです。したがって、長い期間薬を服用していただくことが大事です。
 高齢化や脂肪の多い食事等により今後も胃食道逆流症などが増加していくと思われます。ピロリ菌は減少傾向にあります。
 内視鏡を見ていても20%近くの方が、逆流性食道炎や食道裂肛ヘルニアがあるので、もし身近に胸焼けなど胃の具合の悪い方がいらっしゃったら、ぜひこういう病気があることや、今はいい薬があるということをお伝えいただければと思います。
 今日はご清聴いただき誠にありがとうございました。

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