活動報告

卓話:「写真は地域を変える?」

日付:2015/09/11
卓話者: 鈴木麻弓 様 写真家
卓話:「 写真は地域を変える? 」
30分、よろしくお願いします。
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ご紹介いただいたように宮城の女川町の出身です。4年半前の震災と津波で町が壊滅して、写真館を営んでいた父と母はいまだに行方不明です。親戚や友人たち、近所の人たち、たくさんの人がなくなりました。それでも、私と同じ世代の人たちが「女川、どうすっぺなぁ。でも俺たち、頑張んなきゃなぁ。町、だめンなっぺ」と言って復興に向けて頑張っています。そういう姿を写真に撮ろうと思いました。そして、写真を撮るだけではなくて、どうやったら女川のことを外に発信できるのか、ということを考えました。
新聞やテレビの報道では断片的なことしか伝えられません。そうではなく、地元の人しか感じられない視点をとらえることが、女川の出身者としてやるべき仕事ではないか、と考えて写真を撮り始めました。
私はこの4年半、女川にかよって色々な人たちの写真を撮っているわけですが、撮ってあげて喜んでくれるというのは誰でもできることです。大事なのは、それをどう外に向かって発信していくか、だと思います。発信することによって、外から女川に人が来てくれるようになるんです。女川町というのは震災前から過疎が進んでいた町です。人口1万人の町が震災後は7000人とされていますが、実際に住んでいるのは5000人ほどだと言われています。しかも高齢者が多い町です。そんな中、どうしたら外から人が来てくれてお金を使ってもらえる町にしていけるかということで、"復幸まちづくり合同会社"といった活動が始まり、町を盛り上げるプログラムが立ち上がっています。私は、写真を使って女川を外にアピールすることで・
・・多くの人が女川に来てくれることを考えながら、自主的に写真を撮っています。
町の人たちがいて、写真家が写真を撮ることで信頼関係が生まれる。次に、写真家が外に発信することで町のファンが生まれ、写真家とファンの交流も生まれます。そして、その結果、ファンの人たちが町に来てくれる、新しい交流が生まれる、というふうになったらいいなぁ、と思っています。
では、どういう写真を撮っているのか、具体的にご紹介します。この写真は震災から3か月後に撮った写真ですが、これだけ見ると、外で野菜を売っているだけの夫婦です。なぜ外で売っているのかと言うと、店が流されてしまったから外で売るしかないんです。店を再開した初日の姿です。商売を始めると、人って生き生きしてくるんですよね。お客さんとの会話があったり、野菜を袋に入れてお釣りを手渡したり、そういう普通のことがありがたいんです。人がいて商売を再開できる喜び。私もジーンとくるものがありました。ニュースでは伝えられない、そういう姿を出版物や写真展を通じて外に伝えていこうと思いました。
私が写真を撮っているのは、多くが私の知り合いだったり同級生だったり、近所の人たちだったりします。この写真は、私の一つ上の先輩です。流されて何もなくなった元の家の跡で「代々、商売をしてきたこの場所で俺は再スタートを切りたいから、ここで撮ってくれ」と言われて、「ああ、いいですねぇ!」と言って撮りました。何もなくなってしまいましたが、その時期にしか撮れない写真です。
その後、漁業が復活してきて少しずつ交流人口も増えてきている様子を、スナップ写真に収めてWEBで紹介したりしています。この写真で後ろ姿で写っている人、横須賀の方はわかるでしょうね。(小泉)進次郎さんです。進次郎さんは女川によく来てくれるんですが、この日は、女川土産を買ったり水産加工の体験ができたりする"あがいんステーション"という施設のオープンの記念の日でした。そこで魚屋、私の同級生なんですが、魚屋が進次郎さんとホタテの殻むき競争をやっているところです。普通、ゲストに花を持たせるものですが、このときは魚屋が本気を出してしまって、勝ってしまいました(笑)。進次郎さんは粋な方で、こんなことでも楽しんで、真剣にやってくれました。こういった地元が盛り上がっている様�
・・とか地域でしかわからないことを、Facebookの『おながわ散歩』というファンページに載せています。
被災地の真実を伝えることも必要ですが、こうした「楽しいそうだな」と思わせる、ワクワクするようなことを伝えることが重要だと思います。そして、どんな町なのかということは人の姿を通して伝えるほうが、外の人にとっては想像しやすいと思うんです。おいしそうな料理も作り手の表情が見えているほうが、よりおいしさが伝わります。そういう意味で、人を通して伝える写真、ポートレートというものがいかに大事かということを考えるようになりました。
そんな活動をしていく中で、人物写真を撮ることでわかったことがあります。プロの写真家と向き合って撮られた写真を見ると、「お! 俺、カッコいいな」とか「私ってこんなにきれいだったの?」と喜んでくれます。人がなくしかけた自信を取り戻させる力が、写真にはあるんだということがわかってきました。必ずそうなるということではなく、ちょっとだけそういう気がする、そんなちょっとずつの元気がたくさん集まれば大きなパワーになると思うんです。それが復興のカギになるのではないかと感じています。
女川の仮設住宅に暮らすオバチャンたちに元気になってもらおうと、メイクをしてあげて写真を撮ったことがありました。自分や知り合いのきれいな姿を見てみんな喜んでくれましたが、その写真を集めて写真展を開いたところ、見に来てくれた人たちが「女川の女性ってみんな美人だねぇ。内面からキラキラ輝いているねぇ」と言ってくれたんです。そういう経験をしたことで私は、「社会に発表することで別の相手に何かを考えてもらうということが、写真にはできるんだ」ということを知りました。
写真を発表することで女川と人とをつなげることができて、新しい交流人口が生まれるということは過疎の町にとってはありがたいことです。また、町民がちょっとしたプライドを取り戻していくと外に向けるエネルギーも変わっていきます。外との交流によって町も少しずついい方向に変わっていけばいいな、と思っています。興味がある方、「女川に行ってみたいなぁ」という方がいらっしゃいましたら、おいしいお店とか面白い人たちを紹介しますので、ぜひぜひお声がけください。どうもありがとうございました。
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