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<卓話>「 アラブからみた日本のビジネスと国際化 」

<卓話>「 アラブからみた日本のビジネスと国際化 」
元エルサルバドル大使
国際貿易投資研究所 専務理事 湯 澤 三 郎 様

 昨年11月初旬まで3年7カ月エジプトで通産大臣の輸出振興顧問として、エジプトの輸出のお手伝いをして、現地企業ともかなりの関わりを持ちました。人口8000万のアラブ中東の大国ですから、潜在的なビジネス機会は余りあります。目下アラブの春の嵐の最中ですが、新たな国づくりが軌道に乗ればその市場性は無視できません。エジプトを例にしたアラブとのビジネスを進める上でのいくつかのヒントをお話しします。
2011-11-18.jpg<日本流にこだわり過ぎる>
エジプト人の対日観には称賛と敬意が込められているが、逆に日本人がエジプトの国と人をどれだけ理解しているかについては、かなりの疑問符がつく。どうしてメイドイン・ジャパンがもっと入ってこないのか、中国品ばかりなぜ増えるのか、もどかしい思いでいる。
ある日系企業から鉄管パイプを輸入する仲立ちをしたことがあった。当初役員も乗り気でエジプトから周辺国への輸出も拡大できるとの期待もあったが、結局実らなかった。理由は製品が自社の中国企業からの出荷になることや、日系企業が要求した周辺国を含めた市場規模等の詳細情報が収集できなかったためのようだった。
 ハーブ・スパイスの対日輸出でも、日本から派遣された専門家は異口同音に厳しい品質管理を要求する。現地企業にしてみれば、それに対応するためには新たに検査機械を設置しなければならない。大枚をはたいて、果たして日本は買い付けを確約してくれるのか。保証がなければ余計なコストを支出したくない。今のままでもEUは買ってくれるし、近隣国へは売れている。
 「日本の企業はうるさいことばかり言う。注文ばかりつけて売買契約まで面倒で時間がかかり過ぎる」というのがもっぱら現地での評価。中国、韓国との商売は素早く成立する。こちらが「日本で売れればそれが高品質の代名詞。世界のどこへでも売れる」と言っても、相手の腰を上げて挑戦する気にさせるまでには、仕込みの時間がかかる。それでも、今やエジプトのハーブ・スパイスは三越、高島屋などでは季節のギフトになったし、デーツは東京の六つ星ホテルの客室に配備されるウェルカムスィーツに出世した。
<高い目線が嫌われる>
 エジプトは中近東の大国だから、輸出は周辺国やアフリカが伝統市場だった。それほど規格に厳しくなくても目くじらを立てられない。そのため汗して売る、輸出するという、かつての日本のような経験が乏しい。言うなれば、「欲しい人は買いに来る」。だが2005年の開放経済移行後は、中国、トルコ、韓国製品に国産が押され、海外でも厳しい競争に直面するようになった。勢い輸出促進に注力せざるを得ない。伝統的な輸出促進策は、「国内見本市にアゴアシ付きで外国人バイヤーを招へいして買ってもらう」というもの。勿論、海外見本市にも参加して拡販に励んではいる。だが多くはブースに訪れた業者の名刺を抱え込んで先方からのコンタクトを待っているだけ。結局、「何回も参加したけど売れなかった」という恨み節を聞かされることになる。「名刺を渡した方はあなたがどれだけ熱心か、じっと見ているのだから、あなたからどしどし連絡をとらなければだめですよ」と再三説得して、3~4割の企業が動いた。
 汗をかかないで外国に売ってきたし、売れてきたから、日本のようにアレコレと先方のニーズに見合った条件を整える風土がビジネスに育っていない。勢い日本からは「指導する」姿勢が色濃くなる。指導姿勢が露骨に感じられれば、彼らの面子にもかかわって商談は立ち消える。彼らが遅れていると考えて、アラブへの目線を高くすることは禁物。どこの国、民族に対しても、風土・歴史への敬意を常に心得ることが何事にも不可欠である。
<対アラブビジネスで日本企業に有利な側面も>
日本の企業は鉄道の時刻表のように、すべてキチキチと進めないと違う目線で見られるとエジプト企業は感じている。人生自分の思うようにすべて行くわけがないというのがエジプト人の人生観。絶対者との関係を第1とする宗教的な背景もある。いわば人と人、企業と企業の関係には余白部分があって、社会はその余白の距離感を持ってそれぞれの関係がうまく転がっている。アポのドタキャンも余白部分の一つで、目くじらを立てるほどのものではない。余白の設定は歴史的に部族内の絆しか信用しない風土が生んだ社会の知恵だろう。ビジネスも世間話から始めるのが普通で、日本でいえば関西風。それからすると、日本は距離感、余白を自ら取り去る姿勢を示すことが友好と信頼の第1歩になる。アフターファイブで酒杯を交わすのはその儀式みたいなもの。しかし、酒を飲まないイスラムにとっては、酒席は苦手。醤油にも普通は味醂が入っていることを知らない日本人は多い。折角の寿司のご馳走も彼らには要注意になっている。少なくとも食品会社はハラルなどイスラムの食習慣のタブーを知って欲しいし、ハラル規格を取得してイスラムに売り込むくらいの姿勢を期待したい。
 欧米人は宗教的な背景から、アラブ・イスラムとは距離感を持って対応するが、日本人は幸いそうした垣根を意識しない。生産性・合理化などでの企業指導でも、現場作業員と膝づめの議論を厭わない。「欠陥品が出たのは人智を超えた仕業」と開き直る労働者にも、丁寧に付き合って、「こりゃまずいわ」という台詞が出るまで日にちを掛けて面倒をみる。こうした流儀は欧米人は持ち合わせない。アラブの春が中東に到来し、各国が経済の再建を果たしてゆく過程で、日本の出番は増えるだろう。欧米にできない分野で、日本ならではの協力を期待されるのは必定である。エネルギー分野を除けば、これまで日本企業が中近東に関わる案件は、インフラなど極めて限られてきた。信頼と称賛を持って熱い眼差しを送るアラブ諸国に、本腰を入れてビジネスを拡大できる機会が訪れている。アジアへの視野をもう少し開くと、中近東が見えてくる。歴史的にもインドを軸にして、アジアと中東との交易は活発だった。中国と韓国の草刈り場にしておくには、余りにも「もったいない」。アジアにもインドネシアを筆頭に6カ国で約7億人超のイスラム人口がある。アジアとのビジネスにもイスラムの人々と風土への理解は必須になっている。
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