活動報告

<卓話>サッカーと社会

10月11日 第3036回例会

<卓    話>        「 サッカーと社会 」

元ヴェルディ川崎総監督

元桐蔭学園サッカー部監督 李   国 秀 様

2013101101.jpg ご紹介頂きました李でございます。私もお腹いっぱいですが、皆さんも多分お腹いっぱいだと思います。短い30分の卓話ですので、どこまでサッカーの話ができるか分かりませんが、30分後には少々胸を張って「サッカーとはなるほどこういうものなのか」と思える話ができると宜しいかと思っております。

今日の卓話のご依頼は今年の3月頃に頂いた話で、何故3月に10月の卓話の予定を組まれるのかと思っていました。

私は1990年に横浜で大会を行いました。高校生年代4チームの出場で、2泊3日宿泊費、交通費も負担させないで行いました。1990年は大凡20年前です。その時はまだ芝生のグランドがなかなか使えませんでした。高校サッカーは「勝てば官軍、負ければ賊軍」みたいなところがあり、「変な国だな、この国は」と思っていました。しかし、子供達を預かる身としては、子供達が世の中に出て活躍してほしいと思っておりましたので、子供達に色々なことをしつけていこうと考えて、ある大会を作りました。ヨコハマベイブリッジユースサッカー大会という大会です。予算規模は初期1千万円くらいでしたが、徐々に4千万円くらいになっていきました。その時、横浜の先輩とご縁ができまして、今日に至っているということで私に卓話のご指名がきたのかなと思います。詳しい話は後ほど吉田さんから聞いて頂ければと思います。

そんな中で、吉田さんから「李さん、面白い話をしろ」というので、サッカーの面白いところは一体なんだろうとずっと考えておりました。お金の話だと皆さんに関心を少し持っていただけるのかなと思い、調べてきました。

皆さん、ワールドカップが4年に1度開催されていることはご存知でしょうか。一番最初に行われたのが1930年、ウルグアイという国で行われました。実は、そっちの方は専門的ではないので、インターネットで一生懸命データを調べてきました。「李、お前は何回ワールドカップにいっているんだ」と言われますと、6回ワールドカップに行っています。

お金の話を申し上げれば、前回、南アフリカのワールドカップの時に優勝賞金が出ているのですが、ご存知の方いらっしゃいますか。もっと身近なところでいうと、日本代表はいくらもらったのかご存知でしょうか。

また来年ブラジルでワールドカップが行われます。簡単に言いますと出場すると1億円頂けます。予選リーグで負けると大凡7億円、優勝すると大凡30億円ということです。毎回毎回少しずつ変化はするのですが、所謂、賞金がつきます。

一方、今回オリンピックが東京に決まって良い風が吹いています。オリンピックとサッカーとを少し比べてみましょう。開催地誘致については、今回、トルコ、スペイン、東京で争いました。何を以って東京に決まったのか、多分お酒など飲みながら色々な議論があると思います。「おもてなし」の滝川クリステルさん、高円宮様、僕はこの二人と食事を何度もしたことがありますが、これは外部に放映されてしまうので、余り言ってはいけないですね。

いずれにしてもIOC・主催者側からすると何を以って決めたのだろう。私は讀賣新聞の解説委員ということで、局長とこのあたりの話をします。何が原因だったかご存知でしょうか。IOCのトップに聞かないと分からないですが、要するに補償が欲しかったんですね。トルコは経済的理由でなかなか補償がでない。後ろ盾のドイツが補償すれば何とか開催できる。スペインは皇太子が出てきましたが、IOC側からすれば金銭的補償は何もない。日本は、好きか嫌いかは別にして、安倍総理が直接出て、本当か嘘か分かりませんが福島は大丈夫だということ、お金の補償をしたということが、オリンピック誘致に繋がっただろうと、多分、これは、ほぼ間違いないので私は言っちゃいました。

サッカーに余り馴染みのない方もいらっしゃるので、オリンピックとサッカーの違いを申し上げます。オリンピックは都市開催、サッカーは国家開催です。来年ブラジルでワールドカップが開催されますが、その2年後にリオデジャネイロオリンピックがあります。オリンピックは都市の開催で、サッカーは国家が開催します。

もしお時間があればインターネットでおわかりになると思うのですが、世界の人口が約70億人と言われています。それに比べてサッカーのワールドカップの視聴率は約400億人と言われています。データとしては、いい加減なデータなんでしょうが、北京オリンピックの視聴率というのが80億人くらいだったと言われております。これは調査する側が勝手に作っているわけですから本当のところは良く分かりませんが、要はそれくらい違いがあるということで認識して頂けたら宜しいのではないかと思います。

もう一つ付け加えるなら、サッカーの世界的な大会はワールドカップです。オリンピックは23歳以下の大会です。オリンピックにはその国の一番強いチームは出ません。サッカーで一番クオリティーの高い大会はワールドカップ、だから4年に1度戦います。オリンピックも4年に1度ですが、オリンピックも色々な経緯があって今や賞金も出ますし、プロ選手がどんどん参加する良い形になってきています。それは賞金が出るワールドカップサッカーという一つの導火線があったからだと思います。

ワールドカップ、所謂サッカー連盟からするとオリンピックはセカンドクラスですから、余り出たくない。ところがオリンピック委員会からすると、色々な競技に比べてサッカーの入場者数は多いし、オリンピックだといっても視聴率が高い、だからIOCはサッカーを手放せない環境にあるということは少々ご承知おき頂いて宜しいのではないかと思います。

我が日本は来年のワールドカップに出場しますが、出場するだけで1億円を手に持っています。予選リーグで負けても7億円くらいは貰えることになっています。そうすると選手にいくら配分されるのか興味ありますよね。そのへんは公になっていませんので、興味ある方は新聞に投稿などなさってもらえれば面白いのではないでしょうか。

来年の6月にワールドカップが開催されますが、「日本はどうなんだい? 勝てそうなのかい?」とよく質問されます。12月に組み合わせ抽選会があります。そしてどのグループに入るかによって大体の目安がそこで分かるということです。

私は、おそらく来年も讀賣新聞にブラジルに連れて行かれると思います。少し余談になりますが、前回の南アフリカのワールドカップですが、非常に危険な国だということでしたが、僕にとっては凄く良いことがありました。何かといいますと、「讀賣新聞としては李さんに危険があってはいけない」ということで、最高の条件を出してくれました。どういうことかといいますと、旅行社がフルアテンドをしてくれました。いつも大抵1人で行き、1人で記者席で観るか、もしくは観客席で観ます。

南アフリカの大会のときに非常に危険だということで、私が観る試合は、全て千ドル、日本円で10万円の席で観せてくれました。普通の人たちは1キロくらい離れた所に下ろされて歩いて来ます。私が観た10万円の席は車が競技場の入口に着いてくれる。女性が2人迎えに来てくれる。案内され、部屋に入ると色々な食べ物が、勿論、アルコールも全て用意されている。ですから試合時間の1時間くらい前に行っても退屈しないし、お腹も満たされるし、という席で観られたというのは大変良かったと思っています。ところが、このような席があることを知っている日本人がどのくらいいるのか。大いに問題があるのではないかと旅行社に申し上げました。旅行社は「売れないんだ」と言いますが、売れる前に誰も知らなし、これは是非、皆さんに発表するべきです。

サッカーファンには若い人たちが多いので、弾丸ツアーと称して、試合だけ観て帰ってくる。こういうツアーでは旅の楽しみにもならない。セクレタリーシート、非常に安心して座れるシートというのは実は販売されています。もし、ワールドカップに興味がおありでしたら12月にトーナメント表が決まり、どの地域で試合が行われるか決まりますので、そこで旅行プランを立てて行くという楽しみがあるのではなかろうかと思います。

それからサッカーは毎日やりません。毎日やってはいけません。国際連盟では48時間休むことが決まっています。48時間休まないと死んでしまいます。凄く激しい運動をしますと、皆さん、筋肉痛になりますね。何故かというと乳酸が溜まるからです。体が動かなくなります。ですから48時間をあけないと元の血液の状態に戻れない。つまりいいプレーができない。いいプレーができないと応援団が減るし、値打ちが下がる。そういうことを承知の上で48時間あけなさいというルールです。なかなか日本では馴染みづらいですよね。小学生も、中学生も、高校生も毎日やらせますからね。世界はそういうことをやらせませんが、日本はやらせるんです。そっちの話は置いといて。

ワールドカップは毎日やらないものですから、その国に旅をして、観光もできて、ゴルフが好きな人は、ゴルフもやって、なおかつ自分の国を応援して、そんな人が沢山いるといいなあと、僕はいつも思っているのですが、実はほとんどいません。開催時期が6月というのが相当ネックだそうです。世界では6月が一番いい季節で、こういう大会を組もうというのが歴史的に続いています。テニスがお好きな方だったらウインブルドンが7月にあります。全英も7月にあります。サッカーはずっと、ずっと歴史的に6月ということです。日本では何が起きているのかというと株主総会があり、ほとんど決定権を持つ立場の人達がワールドカップに行ってないものですから、全く世界から疎外されてしまいます。とても重大な問題だと思えてならない。私などサッカーばかりやっていましたけれど、約30カ国行きまして、22カ国でゴルフをやっています。僕は"何を見ているのか"ということを物凄く大事にしています。例えば南アフリカだけでも色々なゴルフ場があります。人種差別をしていた国ですが、解放されて建物が日本では考えられないほど優雅だし、もしくは質素だし、もしくは最低限必要なものがきちっと備えられている。そういう意味では非常に合理的であろうとか思います。

いずれにしても日本はワールドカップに、1998年フランス、2002年も出ました。2006年ドイツ大会、南アフリカも出ました。さて、そろそろロータリーの方々も行かれたら如何でしょうか。今日、僕は旅行社を代表して来ている訳ではないのですが、行かれると大変色々なものを経験できるだろうと思います。ただブラジルは24時間飛行機に乗っていなければいけませんので少々辛いとは思います。ですから1つの提案としては、東京、ニューヨーク、サンパウロ。東京、ロス、サンパウロ。東京、パリ、サンパウロ。東京、ドバイ、サンパウロ。東京、ミラノ、サンパウロ。東京、ロンドン、サンパウロと行った先で少し休みながら、なにも急いでブラジルに行く必要ないのですから、そんな旅も如何かなと思うのです。

専門外のことで20分ほど時間をいただいたのですが、「李、あんたは何の専門家だ」といいますと、先程、ご紹介を頂きましたが、僕は16歳でプロ契約をしています。16歳で給料を5万円いただきまして、昭和32年生れですから逆算していただくと1973、4年くらいから高校に通いながらお金を貰いながらサッカーをやっていたといことになります。今テレビでワーワー騒いでいる松木安太郎と一緒にサッカーをやっていましたが、彼は暁星学園から暁星をやめて堀越の芸能科へ行って午前中の授業だけで午後は練習をしていました。ですから高校を卒業して読売クラブに入ったわけではなく、在校中から読売クラブに入っていました。読売クラブは大人のチームですから、給料頂けて、用具も全部頂けて、それからシンガポールも香港も連れて行って頂けて、それからドイツまで連れて行って頂けました。それが1974年です。そういうことから香港のプロチームに行ったり、無くなってしまったのですが全日空のサッカーチームを僕らは作ったりしていました。後に桐蔭学園に29歳で行って教員の免許もありませんでしたが、10年間監督をやりました。学校に10年というのは、ちょっと長かったですね。その後、ヴェルディでこれも資格が無い中で監督やらされたものですから、「総監督」という立場に就任させられました。

先程、三浦学苑高校の高橋さんと話をしたのですが部員が120人でしたっけ。僕の時は35人しかいませんでした。今の桐蔭は180人くらいいるそうです。これもよく摩訶不思議な話で申し上げます。皆さんの年齢だとお孫さんの話になるかと思うのですが、お孫さんにどういう学校に行かせたいですか。部員数が多いところに行かせたいですか。部員数が少ないところに行かせたいですか。

いい学校の条件が、どこかで議論されなければいけない。もしくはいい指導者の条件がどこかで議論されなければいけない。これをずっと先送りにしていくと、今年の1月に始まったスポーツ指導者の暴力事件のように行き過ぎが起こってしまいます。私も今、簡単にサラサラとしゃべっていますが、簡単にはいきませんでした。桐蔭学園の当時の鵜川昇という理事長が「李君、とにかく日本一になってくれ」と言うから、私は「受けられない、世界一を目指しましょう」と言いました。所謂、考え方とか、方向性で世界を目指さなければ意味がないじゃないかと。

桐蔭学園の学校は、能力別クラスというのがあって、一番できる子はα1、そしてβだγだと分かれていました。ところがスポーツ選手にだってαもいればβもいればγもいる。部活はオール1も2も3も4の子も一緒にするのはおかしいだろということで、1学年11人体制でなければ僕は引受けないと話をしました。桐蔭学園は35人体制であったのはそのためです。それから、学校の監督をやりますと、次に大学だとかプロチームとかに送り出さなければならない。僕は多分日本で一番プロ選手を作った監督です。それから非常に確率高く色々な大学に送った人です。自慢しているわけではありませんが、調べてもらえれば分かります。1年目に、早稲田だとか、慶応だとか、大学に行きたいという子がいました。しかし部活ひどいぞと、筑波もひどいぞと私は言いました。ひどいぞというのは部員が多すぎる。それから学校がきちんと奨励していない。OBや後援会が主催でやっている。これは未だにそうでしょう。じゃ、「大学つくろうぜ」と言って、駒澤大学でサッカー部を作りました。駒澤大学の関係者を呼び、桐蔭学園のいい子だけを3人そちらに行かせますと言いました。4年間で12人になります。4年後には日本一をポンポンと取りました。試合はテレビ朝日で放送しましたが、出身校は全部消していました。

そういう事もあり、突拍子もない事をやっていそうですが、実は結構いいことをやっているのかなとは思っているのです。

いずれにしてもサッカーをやっていて思うことですが、サッカーの値打ちはどこにあるのか。例えば、指導者として。何十年も監督をやっていて高校選手権に何回も出場している人が、日本サッカー協会で全く優遇されていません。高校野球もそうですよね。高校野球で闘将とか猛将といわれた人達も、そんな良い待遇で世の中生きていない。ですから、「勝つ」ことの意味がずっと分からなくて、サッカーの値打ちって一体何があるのだろうといつも思う。つまり指導の値打ちって一体何かと、いつも思うんですね。

小学生、お孫さんたちがサッカーをやるとか、色々なスポーツをやる中で、彼等が得られるものって一体何なのかと考えてみる。

子供がスポーツをやることによって得られるものって一体何なのでしょうか。

1つめは、聞く力がつくこと。聞けない子は上手になりません。

2つめは、見る力がつくこと。ものは見て真似て覚える。

3つめは、やってみようというバイタリティがあること。

4つめは、振り返る力。

僕は、こういうことを、スポーツを指導する側がきちんと伝えていく、それから受け止めてくれる大人たちが沢山いるという時代が日本のスポーツの進歩につながるというように思っています。あくまでも僕の持論です。文部省や日本サッカー協会が言っている訳ではありません。

どうか子供達に「スポーツが上手くなりたかったら人の話しは聞くんだよ。良く見るんだよ。」と伝えてあげて下さい。もう一つは「スポーツやる子はクラスでいい子じゃないと、グランドでいい子はできないんだぞ」と、アドバイスしてあげて下さい。是非、そういうことでスポーツの入り方、進め方を。そして送り出し方というのはとても大事で「どこに行かすのか」というのが大事なんですね。「李さん、高校どこ行ったらいいか?」とよく質問されますが、答えられないのです。「ここへ行ったら間違い無い」ってことはないのです。野球の選手の中3の子には薦められる学校が神奈川県にはあります。「横浜、桐蔭、東海大相模であれば少々先がみえるだろう」と言えますが。サッカーにはそれが無いのが悲しい状況かと思います。

プロの華やかな話もあれば、子供の低学年の話もあり、多岐に渡って広げすぎましたが、"今日は何か聞いていて良かったなあ"ということになろうかと勝手に思っています。

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