活動報告

<卓話> 『 初音ミクと近松門左衛門 』

<卓    話>        『 初音ミクと近松門左衛門
           デジタルハリウッド大学 教授 福 岡 俊 弘 様
3145.jpg 皆さんこんにちは。デジタルハリウッド大学の福岡です。まずはこのCM映像から見てください。(トヨタCM2本)ということで、今ご覧いただきましたのは、2011年、今から5年前、全米で約半年間放映されたトヨタのCMです。果たしてこの初音ミクって何でしょうか。その前に初音ミクをご存知の方ってどの位いらっしゃいますか?聞いたことある方は?(挙手)そうですか、ありがとうございます。結構多いですね。2~3人しか手が挙らないと想像していたのですが。かなりハードルが上がった感がしますね。今日は初音ミクと近松門左衛門というお題をいただきました。正直言って近松までたどり着けるかどうかわかりませんが、一応プログラム右下に人形浄瑠璃、これは義経千本桜の静御膳の人形ですが貼らせていただきました。この静御前が持っていた鼓が初音の鼓ですよね。ちょっと、そのくらいの遠い関係性をまずお話しして、次に移りたいと思います。初音ミクというと、こちらはたぶんご存知だと思いますが、(映像 小林幸子)これは小林幸子が歌う千本桜という曲です。昨年暮れの紅白歌合戦でも小林幸子が歌っていたと思うのですが、紅白の映像がなかったので一昨年、日本武道館で行われた小林幸子のコンサートの映像になっているんですが、このとき、紅白歌合戦のなかでこの曲の紹介のときに「初音ミクが歌った千本桜」という紹介が確かあったと思うんですが、初音ミクが歌った元の曲はご存じですか?お聞きになってないと思うのでお目にかけます。(映像)
これが元歌にありました初音ミクの歌う千本桜です。これは2011年の9月、5年前ですが、ニコニコ動画に投稿されて、今日の朝、見てきましたけれども1000万再生超えていましたね。日本のニコニコ動画に投稿された楽曲のなかでも多分3本の指に入る再生数という、大変有名な曲になります。これを一昨年、小林幸子がカバーして別の意味でも有名になりました。さて、この初音ミクなんですが、元々が何かというと、ヤマハが開発した音声技術「VOCALOID」という音声合成技術があるんですが、こちらに対応したボーカル音源と言います。難しいですけれども、シンセサイザーをご存知の方は分かり易いかと思うんですが、要はパソコンで奏でる「楽器」です。ただ、人の声をした楽器ということです。因みに初音ミクの元々の声の声色のデータベースとなったのは、藤田咲さんという声優さんの声なんです。この声の成分を取り出して初音ミクの声にしていますが、初音ミクだけでなく「VOCALOID」の音源はたくさんあるんです。
今日は、その初音ミクの話をします。2007年、初音ミクは発売になったんですが、(映像)このコスプレーヤーが何でこの格好をしているかというと、このパッケージの衣裳なんです。
初音ミクは元々、16歳のバーチャルシンガーという設定です。16歳の女の子の声をシミュレートしています。舌足らずなのは、日本の女の子は外国人に比べ比較的若干舌が短いそうです、生物学的に。なので、いわゆる舌足らずな声になってしまうそうですが、そういったものをちゃんとシミュレートしたような声にして、ちょっと気の抜けたような感じになっています。(映像 天城越え)まさかここで天城越え聞くとは思わなかったでしょ。これが初音ミクの歌です。ちょっと舌足らずな感じで歌っています。でも実はこれ、楽器なんですね。声というモノを楽器に見立ててソフトエッジしたのが初音ミクです。(曲演奏)これは2008年に発表された曲なんですが、これを作ったのは当時の東大生なんですね。東京大学の農学部に通っていた学生が作った曲です。今彼は東大を出て官僚にもならず、何故かミュージシャンになってしまったんですが、そういう人が作っています。偏差値高そうなそんな感じしますよね。これがゲームにもなりました。(映像)これはセガが発売したプレイステーション用のソフトなんですが、いわゆる音楽のリズムゲームというジャンルのものです。(ゲーム画面)出てくる記号みたいなものを、コントローラーリズムにあわせて叩いていくとこの楽曲が流れて最後まで聞けるという仕組みになっています。そして初音ミクですが、この10年間くらいでいろんなことが起こっていました。(映像に)初音ミクレーシングチームというのがありまして、5年間くらいやってまして、GT300というカテゴリーですが、日本のGTレースのなかで初音ミクをプリントしたレーシングカーが走っています。また、私が編集長を務めていた初音ミクの専門誌もありました。フィギュアについては、数えきれないくらいの数が出ています。千本桜の楽曲の小説では、歌詞の世界をそのまま小説に落とし込んだもので、因みに私の企画です。手前味噌ですみませんホントに。そんな初音ミクですが、いろんなコラボレーションもやっています。世界を代表する冨田勲先生とはイーハトーヴ交響曲で初音ミクを使った楽曲を3年くらい前に、また安室奈美恵さんが昨年、初音ミクとコラボしたPVを作りました。(映像)2012年には、八景島シーパラダイスを全部、初音ミクの世界にプリントしようということでイベントを行ないました。水槽の中に等身大のフィギュアを沈めて、「深海少女」という楽曲があって、この楽曲の世界を表現するためにこういうコラボをしました。
ただ、ここからが今日の話しの中心になるのですが、初音ミクが本当に世界に認められたのは、2011年4月2日の初めての海外コンサートでのことです。因みに私と初音ミクの関係性でいえば、このコンサートのプロデューサーを私が務めさせていただきました。この会場ですが、ロスのノキアシアター(現マイクロソフトシアター・クラブノキア)といいまして、グラミー賞の発表をするところで5500席ありますが、おそらく日本人のアーティストとして満員にしたのは初音ミクが初めてではないかと思います。そもそも初音ミクは人間ではないので、人間ではないものがコンサートで満員にしたのは初めてではないでしょうか。このとき日本人は100人くらいでしたね。(映像)バンドは生バンドなんですが、リラットボードといいまして、半透明のスクリーンに後ろから光を当てて初音ミクを投影する方式でやっているわけですね。CGのクオリティそれから照明の当て方によっては本当にステージに初音ミクが降臨して歌っているように見える仕組みになっていて、実態はないんです。実態のないものに対して観客がペンライトをしきりに振っているという、どうでしょう、おかしいですか?怖いですか?そういう構造がここにあるわけです。歌い手は実在していないんですね。これは一体なんだろうということで総括しますと、実在しないものをそこに降臨させるということに相成らないわけですね。実在してないものをそこに降臨させる、アニメのキャラクターでもないですね、これは。「見立て」なんだと思います、例えば、庭を造るときに富士山に見えるようにそこに山を造ったりするのも見立てなわけですが。或いは杯に汲んだ酒の上に月を映して飲むという、これは月に見立てて遊ぶという見立てなんですね。そこに遊びを感じるわけです。これは何かというと、本当にそこに初音ミクが実在しようと考えた「遊び」なんです。遊びでなければあそこまで熱狂できないです。多少気持ち悪いかもしれませんが、そういう遊びの観念で、それを作る人たちがいるわけです、一生懸命に。遊びを作る側に視点を移していただきたいのですが、これはまさに人形浄瑠璃でいうところの「三業一体」という言葉がありますが、浄瑠璃を語る「大夫」「三味線」「人形遣い」の三者が一体となってコラボレーションで一つの見立てを作った。近松門左衛門は、そこに人成らざる者、人形を遣ってそこに一つの舞台空間を作りあげた。それが今、蘇ったとはとてもいいませんが、今行っていることは、ご覧いただいた初音ミクのステージというのは、まさに楽曲を作った人、演奏する人、初音ミクCGを作った人、この三者のそれぞれの思いが交錯して、一つのバーチャルなアイドルがそこに降臨したんです。今日のお題の初音ミクと近松門左衛門にたどり着けたかどうかわかりませんが、そこに300年前の人形浄瑠璃を作った人たちの思いと今、初音ミクをステージに立たせた人たちの思いが、実は相当シンクロしているんではないかとみて、私自身はこの世界にはまっていったということです。皆さんがこの文化をどうご覧になるかわかりませんが、今、実際にいないキャラクターがここまで来ているということをお話しさせていただいて、初音ミクの話しとしていただければと思います。ありがとうございました。
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