活動報告

卓話: 「 未来の子供たちに贈るもの 」 

株式会社MARIO DEL MARE 一級建築士事務所 代表建築家 下平万里夫 様

 はじめまして。逗子市の設計事務所を営む下平です。緊張しておりますが宜しくお願いします。このあたり海軍基地があったり軍艦三笠があったり、私は好きでよく遊びにきますが、皆さまのなかにも海が好きな方も多いのではないでしょうか。私は子供の頃から海が大好きです。今はこの近くに住んでいますが昔は埼玉県に住んでいました。年に一度家族で海水浴に行くことがとても楽しみでした。また、子供の頃のある祭りの縁日で、かっこいい金髪のサーファーが描いてあったおもちゃのサーフボードをどうしても欲しかったことがありました。当時はインターネットもない時代でしたのでサーフィンなんて見たことがなかったのですが「これをやってみたいな」と思って買ってもらった記憶があります。年に一度の海水浴ですから、指折り数えて「海水浴の日」まで写真をみながら畳のうえでイメージトレーニングをしていたんです。本人はかっこいいサーファーのつもりなんですが、母親がそれをみて大笑い。「畳のうえで何、変わった踊りをしているの?」自分のイメージと実際は違ったようでした。海に実際行ってもおもちゃの発泡スチロールのサーフボードでは遊べないのですが、ただ波が来て何回も揉まれて遊んで、お腹がすいてかき氷を食べたり、釣りをしたりしたことがとても楽しかった。そんな思いがずっとあって、大人になって忘れていましたが、実際自分の子供ができてみて「海の近くで遊ばせたいな」そう強く思いました。そうして葉山に引っ越して、子供たちとたのしい時間を過ごしました。
そんなときに、家の近くにある葉山のマンションのところはむかし、とてもきれいな場所だったことを知りました。葉山の一色海岸。いまも凄く綺麗な場所なんですけれども、かつてはきれいな岩礁地帯だった。埋め立ててマンションを作ってしまっている事実を知りまして、「建築は暴力なんだな」と思い始めたのが十数年前です。自然は一度壊してしまうとなかなか元には戻すことができなくて、ましてや、コンクリートで固めてしまうとそれを撤去するのが非常に大変。そのために人が使わなくなるとそこは廃墟となる・・・最悪、長崎の軍艦島のようになります。元は小さな非常にきれいな岩礁地帯だったが、炭鉱がとれるということでコンクリートを持ちこみ町を作り、やがて炭鉱がとれなくなると人は住まなくなって。元に戻すかというと、もう元には戻せない。廃墟になってしまうという訳です。「これを何とかしたいな」と思いました。葉山は手付かずの自然が残っている、今だから、ストップすることができるかなと。将来私の子どもの子供の、そのまた子供の代くらいの時に、私たちの時代の写真を未来の子どもが見て「これってどこなの?」「あれってあそこだよ」といったときに、そこにこういうもの(コンクリート)があったらものすごく寂しい。で、21世紀の建築人として何が出来るのかを考えていきました。
人が住むには床があり、建築という環境が必要なのですが、「建築は本当にコンクリートを流し込まないと作れないのか!?」ということから見直していきました。まず環境と人との関係をマトリックスにしてみました。テントは人にはやさしくないが環境にはやさしい。キャンピングカーは人には少しやさしいが道路が必要、環境にはだんだん優しくなくなっている。建築は人にやさしいけれども、環境に対する負荷は非常に大きい。なにが必要かと考えると、人にもやさしくて、環境にもやさしいそんな建築が必要と気付きました。それはどういうものだろう・・・環境破壊をしない。快適である。傾斜地、デコボコの土地でも建てられる。ブルドーザーで平らにしなくても作れる建築。それは高床だろうと考えた。床を持ちあげることで、地面と切り離すことが出来る。で地面に対する負荷も小さくできる。そこで従来の高床と新しい高床を比較してみました。従来は大きな荷重を支えるために基礎を作る。柱が地面にめりこまないように基礎をつくります。これが自然破壊になる。そこで加重を分散させて小さな点で数多く支えてあげればいいと考えました。ところが、地面が斜めになっていると床も斜めになってしまう。そこで床を三脚の頂点からロープで釣ることを考えました。そうすることで地面が斜めや歪んでいても長さを調節することでいろんな面が作れる。ところがこの方法だと大きな面積を作ることができません。そこで上の床の部分をトラス構造にして、下の三脚の部分の頭が出てこないようにした。これで作ったのが高床式のテント(ZERO POD)です。いまはテントですが将来は建築まで拡張していきたいなと考えています。約15分で組み立てが出来ます。スキー場や、湖畔、農地でもテントを張ることが出来ます。
ビジネス展開としては、建築に近いもの、六角形のテントを蜂の巣状に大きくしていくことを考えています。いまは、第一フェーズ(製品開発)マーケットリサーチが終わったところです。いろんなところに持ち出してBBQをしたり、友達に使ってもらい、感想を聞いたりしました。第二フェーズは国内販売。まだまだ目途が立っていません。理由はひとつ作るのにかなりお金がかかります、量産には型を作ったり数千万円単位の準備費用が必要。いままでは個人で時間をかけ、多少のお金を工面していましたが、量産には資金が必要ということで今は第二フェーズ入りかけのところです。実際にはどのようなマーケットがあるか去年リサーチしました。リゾートホテル、キャンプ場、スキー場。斜面でもテントが張れるので夏のスキー場。六次化事業、アグリツーリズム、・・農地を利用した観光がこれからのテーマ。「ZERO POD AIR」と呼んでいますが、個人用の高床のテント。とても軽く、大きさはゴルフバックくらい。直径三メートルくらい。試作機が出来上がった段階。「AIR」のマーケットは、キャンピングカーを所有されている方からラブコール。キャンピングカーに積んで持っていきたいと言われます。キャンピングカーのなかは暑いからだそうです。快適な屋外空間になります。虫も日差しも防げて芝生も傷めない、一戸建ての庭で使用が好評でした。そして第三フェーズでは海外へと考えています。米国、「グランピング」高級キャンピング市場に持ち込みたい。
当事務所の紹介をさせていただきますと、逗子市にある事務所で、土地柄、海沿いの建築をやらせて戴いてます。海一望の建築などを手掛けています。ホームページをご覧ください。スタッフは、広告代理店に勤める友人が、私の苦手なマーケティングや営業のアドバイスをしてくれています。
最後(第四フェーズ)に目指すものはなにかというと、自然破壊をしない建築の開発。長い間リゾート開発というと環境破壊。「自然をたのしんでください」「自然と友だちになろう」と言っている一方で環境を壊してしまう矛盾をこの業界は孕んでいます。建設業も同じなんですが、建設業そのものも新しい建築を作って行かなければいけない。そのときにはどうするか行政が建築基準法とかを見直していかなきゃいけない。そのための最初の起爆剤としてこのテントがあります。小さなコテージがたくさんあって、メインハウスがあって、同じ床のシステムで地面を削らないで建物を作っていく。それを季節限定で、夏だけ、冬だけ、一年間だけ作って、撤去したら何も残らない。元の自然をそのまま利用した「エコリゾート」というものを創っていきたいと思っています。これは三浦半島からスタートして、世界へ持っていきたいなと考えておりますので是非地元の皆さんの応援を宜しくお願いします。ありがとうございました。
<第3136回 卓話>
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